2008年9月10日水曜日

Google Street Viewが持ちえない情報

Google Street View(ストリートビュー)が、写してはいけないものまで公開していることが多くのサイトで話題になっています。今日、「不適切画像の削除作業は小鳥並の知能で行われる」:高木浩光@自宅の日記のエントリをみて、根本的な問題がようやく整理できました。

Google Street Viewが検索エンジンのロボットやウェブ上のブログなどと根本的に違うのは、人のフィルターを通さない情報をネットに晒している」ことに尽きます。

もちろんGoogle Street Viewのデータを収集するには、路上の写真を撮影する実際の作業員がいて、撮るべき場所の最低限の判断はしているのでしょう。(私道に入り込んでいたり、とそれすらも怪しいですが)。写ってしまった人の顔をぼかすなどの処理もしているようです。けれど、ネットに公開すべき情報とそうでない情報の判断を、98%の精度でスパムメールを弾くのと同じ方法で行ってはいけない事例が多々存在します。

例えば、写ってはいけない人が、その場所に写っていた場合。この写真をウェブに公開してもよいかという判断は、写っている場所以外の外部情報を使わないと通常はできません。なぜなら、顔が伏せられていたとしても、背格好、服装や行動範囲などでその人を特定できる情報を持っている人にとっては、ただの写真以上の情報がそこにあります。たとえ洗濯物が映ってしまったという程度のことでも、女性の一人暮らしであることがわかってしまうなど、写された住居に住む人の危険を招くことさえありえます。

「問題のある画像だから、画像を消す」という現在のGoogleの対応では、「消したという事実」によって、消された場所に何があったのか、という好奇心を刺激し、削除依頼主の意にそぐわない事態を招くことが十分考えられます。

インターネットの普及に伴い、ネットの存在意義もプライバシーの問題も議論されてきました。ネットの検索エンジンがけしからん、といういう人が減ってきたのは、利便性の認知とともに「Webに個人情報などを公開しない」という選択肢と、そのための情報の管理方法が存在しうるからです。つまり「人によるフィルター」を介在させる余地がWebに情報を送る前に残されているのです。けれど、ストリートビューにはそれがない。

目に見える情報がすべてではないのです。株のインサイダー取引のように、内部情報を知りうるものだけに利益を与え、他の人の利益を不正に大きく損ねてしまう。

ストリートビューは、今までなかなか見られなかった情報を収集し、目的地や町の雰囲気を容易に知ることができるようなったという点で、その存在意義や利便性は高く評価しています。ただ、それを人や機械の目による判定や、報告だけで安全にできるというGoogleの現在の主張には、非常におこがましいものを感じます。当事者にしかわからない情報というのは常に存在するものです。

今までのウェブ情報の収集とは違って、ストリートビューでは「人によるフィルター」の情報が根本的に抜け落ちています。「ウェブに存在しない・載せていない」という事実だって立派な情報です。フィルターを通したあとの情報を扱ってきたから、Googleには何をしても怖くないという強みがありました。ストリートビューのように、フィルターを通す前のレイヤー(層)の情報を扱いだしてから、急に対応の陳腐さが目立つようになってきたのがとても残念です。

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